感動を求めて、ロシアまで、山登りに
|
渡辺 啓三 |
|
8月初め、ロシアに行って、エルブルース山(5,642メートル)に登ってきました。
エルブルース山は、ロシアとグルジアの国境近くにあるヨーロッパの最高峰です。と、いうことは、いわゆる「7大陸最高峰」の一つでもあります。
注 7大陸最高峰
アジア:エヴェレスト
南米:アコンカグア
北米:マッキンレイ
アフリカ:キリマンジャロ
ヨーロッパ:エルブルース
南極大陸:ビンソン・マシフ
オセアニア:カルストン・ピラミッド |
山頂で、ガイドのアンドレイと |
|
|
「周りの山は、全部、自分より下で、素晴らしい景色だ。」という甘い、誘いの言葉と、ペレストロイカ以後のロシアはどのように変わっているのだろうかと言う興味とで、はるばる出かけたのですが、それにしても、ロシアまで山登りに行くとは、「私も物好きだなあ…」と、つくづく思います。
成田からモスクワ経由で、黒海とカスピ海の間にあるコーカサス山脈の麓の街"ミネラルヌイ・ボドイ"まで飛びました。
コーカサス山脈はロシアとグルジアとの国境ですので、山に近づくと、ロシア国境守備隊のチェック・ポストが目立ちます。
エルブルース山登頂に先駆けて、高所順応の為に出かけた近隣の4千メートル級の山への訓練登山の時には、中腹にいた守備兵が追いかけてきて「パスポートを預かる。3時迄には必ず下りて来るように。」と厳命される始末でした。「わざわざ険しい峠を越えてグルジアへ逃げよう」等と考える酔狂な人はいないと思うし、山麓一帯はリゾート地で、ロシアの若者達が短い夏を陽気に楽しんでいるのに、ロシアとグルジアとの緊張関係を垣間見た感じです。
|
|
|
エルブルース山東峰(西峰は雲の中)
|
山麓に、ビキニのハイカーが出現 |
|
|
翌日、冬はスキー場になる土地柄から夏でも動いているゴンドラを2度乗り継ぎ、最後にチェア・リフトを使って高度3700メートルにある山小屋まで、高度差1500メートルを30分足らずで上がります。
ちょうど、富士山の五合目から剣が峰までゴンドラとリフトであっというまに上がってしまうようなものですが、さすが、同行5名全員、高山病にもならず、平気な顔で更に400メートル上まで高所順応の訓練登山に出かけました。
|
|
|
高所順応の訓練登山(4100m)
正面の山はドンクスオルン4454m |
コーカサスの山々(1)
山脈の向こう側はグルジア
|
|
|
コーカサスの山々(2) ウシバ峰(4700m)
|
コーカサスの山々(3)
|
|
|
|
|
その名も「樽小屋」という山小屋
左奥がエルブルース西峰 5642m
右手前東峰 5621m |
夕食中のメンバー。
キュウリとトマトのサラダがおいしかった。
|
|
|
翌日も、1100メートル上の4800メートル地点まで、高所順応の訓練登山でした。
3日連続の訓練登山で2名が落伍。翌日の本番は小生を含む3名が本隊。他の1名は「登れる所まで、ガイドとゆっくり行く」ことになり、1名は小屋で休養となりました。
5000メートルを超えて登っても高山病にならないように登頂前に繰り返す"高所順応の訓練登山"ですが、それで体力を消耗してしまうと身も蓋もありません。日頃から体力を強化するとともに、「"高所順応の訓練登山"と"体力の温存"のバランス」を各自が"自己管理"しなければならないのは中高年登山者の悩みで、疲れをしらぬ若者がほんとうに羨ましくなります。
|
|
|
午前3時半出発。6時 日の出。
今日も天気は大丈夫だ! |
延々と続くトラバース
|
|
|
|
|
エルブルース山頂からの展望 |
|
|
"天候が極めて不安定"と聞いて来たエルブルース山ですが、ガイドが「今までの数知れないエルブルース登頂で初めて」と言う、快晴・無風の好天に恵まれ快適に登れました。
”ゆっくりペース”別働隊の1名とは帰途に”頂上まであと1時間半”の地点で出会いました。
「時間的に登頂は無理、ここから引き返す」とガイドに言われた途端に本人の気持ちが萎えたのでしょうか、急に足腰が立たなくなってしまいました。
夜はマイナス30度以上にもなる山中で、「下りなければ死ぬぞ。歩け。」とガイドが繰り返し叱咤激励し、ザイルで確保しながら、なんとか下山させました。
後でガイドに訊きましたら「あの様子ならまだ大丈夫。心配ない。」と思っていたそうですが、ヘリコプターが呼べるような所でもなく、一時はほんとうにどうなることかと思いました。
登頂翌日は予備日でしたので、小屋でのんびりしていたのですが、午後3時頃、あっという間に黒雲が広がり、強風、降雹、雷となりました。"ピンク色"の稲妻(ロシアでは稲妻も赤い? そんな稲妻、初めて見ました。)が、真横に、また、眼下の谷へ向かって縦横に走ります。
「昨日が今日だったら…」と、ザック、ピッケル等を投げ捨てて雪の急斜面にへばりついている自分を想像して、戦慄しました。
|
|
次の日に下山しましたが、前日の落雷でチェア・リフトが動かず、25キロの荷を背負って途中まで下りることになりました。
下界に着いて飲んだビールと、シシ・カバブの美味しかったことは云うまでもありません |
|
|
私が山に惹かれるのは、「地球にはこんな美しい所があったのか!」という感動を求めてだと思います。
体力の強化に努め、相応の山を選び、十分な装備を整えて、山行をこれからも続けたいと思っています。 |
|
|
|