雲南 神の住む山 天空の里

  数野 博久


 7月8日(金)からの「雲南アルプス2大名峰とシャングリラ・ハイキングの旅」は、人気の海外ツアー旅行のひとつである。

人工滝  金沙江月亮湾 通称Ω

 海外旅行は夫婦で行っていたが、妻が都合で行けず、初めての一人旅となった。

 梅里雪山は、雲南省の最高峰であり、地元のチベット族の人々から「神の住む山」として崇められ、毎年11月に五体投地で知られるラマ教の巡礼がこの山を巡って行われる聖山なのである。
 十三白搭からの梅里雪山 
 
 主峰カワグボ(6740m)は1991年に京都大学学士山岳会が日中合同で未踏峰に挑んだが、頂上目前でベンガル湾に発生した異常な低気圧の影響で降雪による雪崩で全員遭難を起したことでも知られている未踏峰の山である。 
 玉龍雪山は、北半球では一番南にある氷河として知られ、南北に35km、東西に25kmのエリアに13峰あり、まるで龍が空を飛翔するように見えるので玉龍雪山といわれ、ナシ族の三朶神の化身である聖なる山だそうだ。両方とも日本の大雪山と同じように一つの山でなく15くらいの山がある山塊である。
 玉龍雪山の最高峰扇子陡 

 こんな伝説を聞いた。ある時、主人のカワグボが闘いに出ている間、妻が玉龍雪山と不倫して子どもをもうけたと。いかにも開けっぴろげで素朴なチベットの人の話だと思った。
 横断山脈はヒマラヤが東に延長しているとも考えられ、中国のチベット自治省、雲南省西北部、隣のミャンマー北部のあたり一体は急峻な山々と2000~4000mの深い渓谷が連続し、地球の皺といわれ、アジアを代表する3つの川が最狭部66kmの間に3本、170kmにもわたって併流している。
 3つの川とは、西から怒江:ミャンマーを流れるサルウィン河(2800km)、瀾滄江:東南アジア最長のメコン河(4200km)、金沙江:ユーラシア大陸最長の長江(6300km)である。
 
 また谷底の低海抜地と高山地域の標高差が非常に急激であるため、植物が垂直に分布していて、植物形態も多岐で、豊富な植物相があり、中でも梅里雪山を中心としてブルーポピーの花が有名で、「青いケシの国」とも呼ばれている。

 梅里雪山とは、「薬草の多い山」を漢族が漢字に当て字した山名だそうだ。
 雲南省は薬草の宝庫でも有名な所でもある。
 中国56民族のうち26民族が起伏の激しい雲南省山岳地帯で生活をしている。棚田には米、段々畑には玉蜀黍、大麦、胡桃などを植え、急峻な斜面にどうやって作ったのだろうかと思わせる、まさに天にも届く梯子のようである。
 またヒマラヤ南麓から雲南そして西日本へと続く照葉樹林文化に属し、「日本文化のルーツは雲南にあり」といわれているので、旅行の目的のひとつでもあった。麗江で少数民族のショーを見に行き、京劇や雑技団に匹敵するもので、それぞれ独自の民族習慣を上手な歌謡を通して紹介してくれとても感動した。 
 多種多様な内容の豊かな民族文化遺産が創造されていたことがわかった。
 雲南省北西部はチベット高原にあり、標高は高く、寒冷な気候である。  
 一つの山に四季があり、十里の間に気候が違う’という。一つの省に寒帯、温帯、熱帯があり、15000種の植物王国、約250種の動物・766種の鳥類が生息する動物王国、非鉄金属の王国、漢方薬材の里、茶とタバコが雲南省の赤い土に適しているらしい。
 南部はラオスとの国境付近のタイ人と親戚関係にあるタイ族の住む西(シー)双版納(サンパンナ)低海抜の熱帯雨林的なジャングルもある。
 雲南省は食生活や人々の生活習慣なども多様性を持つ所でもある。
シャングリラは「素晴らしい所」とか「桃源郷」という意味があり、またジェームス・ヒルトンの「失われた地平線」で中国西南部のチベット地域にある平和で安静な所といわれたことから雲南省はチベット語の迪慶香格里拉(中甸)が「シャングリラ」であると世界に発表し、漢語の「香格里拉」と2002年に町の名前を変えたばかりである。
大マニ車から香格里拉を眺む

 シャングリラは「心中の日月」という理想的な生活の場を意味し、周りには、松賛林寺(帰化寺)、納帕海、碧塔海、属都湖、下給温泉、白水台などがある。         
 
 このようなところに行くので、心配なのが高山病である。
 広州で一泊、飛行機で昆明へ。乗り換えて麗江、玉龍雪山の?牛坪(3500m)までのリフトでのハイキング、世界遺産の麗江古城のある麗江(2400m)で一泊。麗江からバスで虎跳峡でのハイク、3500mのシャングリラ(香格里拉)そして4200mの白馬(白范)雪山の峠越えをし、徳欽の外れの飛来寺で宿泊と徐々に体を少しずつ馴らしていった。
 
 梅里雪山へは断崖絶壁の道で2300メートルまで下り、そこで橋を渡って、西単村を通って明永村まで行く。さらにそこから馬に乗って1時間半森林地帯の石畳の登り坂をラマ教の経典が書かれているタルチョがはためく太子廟(2700m)まで行く。おそらくここはカワグボ巡礼に大いに関係がある所、チベット語のシャンバラ(聖地)かもしれない。そこから階段の桟道を上がっていくと明永氷河の展望台に出る。
 明永氷河3000m付近
 
 6800mを超える頂上から約3500mもの長さの氷河のセラック帯は蒼く、時々轟音を発してクレパスの中に崩れ落ちていく。これは7年かけて頂上付近で遭難したいたが発見されたことから年間500mという世界最速の氷河であることがわかったと山と渓谷社「梅里雪山」に書かれている。
     セラック帯
 同行の中には山歩きの好きな人も結構いた。道端の高山植物が目を楽しませてくれた。そして大自然の素晴らしさをいかんなく展開してくれる。
 
 また、麗江では、旧市街(古城)の萬古楼から木氏の紫禁城を象った所「木府」(ムーフー)もすぐ下に見え、古城の甍の町並みが眼下に見渡せる。
ミニ紫禁城(木氏の館跡)
 新市街は現代的な建物が建ち、新しい息吹を感じた。帰り道、四方街を通ったら北斗七星を意味する民族衣裳を身につけた人達が踊りのはじまるのを待っていた。
 
 そこから明清時代の大きなアーチ型の石橋、石板の橋300座といわれ、玉龍雪山に端を発した3本の疎水が走っている街の路地を通りぬけ、入口のところに出た。途中、東巴文字で漢字と並べた判を作ってもらった。清流、瓦屋根、石畳、水車が麗江古城のキーワード。少数民族ともっと触れ合うことが出来たらさらによかった。
 
 旅は、「より遠く、より広く、より高く」ということで取り組んできた。
 今回の旅で「より深く」が加わった。