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阿 古 |
夏の間夜更けの散歩を日課にしていた老犬が、クリスマスに日付が変ってまもなくの時に永い眠りの旅にでた。
食欲盛んな秋には、山盛りご飯をぺろりと平らげて、帰宅した家人に順におやつをねだり、山盛りご飯の夜食を食べると、ようやっと眠りにつく。体が重くなって時々足をもつれさせながらも、散歩は夕方に落ち着いた。
冬の訪れとともに山盛りご飯が普通の盛りになった。やがて夜食がいらなくなり、食が細くなったと思い始めてからは、好き嫌いが激しくなった。体重は減っても、歩くスピードはどんどん遅くなった。好きなものをあれこれと思い出しながら並べる日が続いた。水ばかりを際限なく飲んでいるので、隣にスポーツ飲料を置いてみたりもした。美味しそうに飲む日もあり、飽きたとばかりそっぽを向く日もあった。
その水もあまり上手に飲めなくなり、弾みで座り込むと起き上がるのに介添えが必要になった。それでもトイレを失敗することはなく、動けなくなったその日も歩いてトイレに行きたいと呼んでいた。
満天の星空に細く細く月がかかる夜更け。サンタクロースがプレゼントを届けに走り回るのを追いかけるように、静かに眠ったまま旅立っていった。
「楽しかったよ、ありがとう」と小さくつぶやいた。
犬の喪中を口実にお正月を手抜きにしたい目論見は外れて、いつもの慌しい歳末風景。蒲鉾の端っこを投げてやろうとして、慌てて自分の口に放りこんだ。
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